アエラス フォーラム 関西から新しい「風」─斬新な思想、創造的な発想
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第11回 アエラスフォーラムII
「社会に浸透しグローバル化するデジタル技術を考える」

コーディネーター
山口 英

基調講演 I
竹井 淳
基調講演 II
折田明子

 
コーディネーターより
 ここ数年、生産や調達、輸送といったサプライチェーンのIT化が加速度的に進んでいます。いまやオフィスはもちろん、工場などの生産現場にも、あるいは宅配業の配達員が持っているモバイル端末にまで、当然のようにコンピュータが備わっています。加えて近年顕著なのが、一企業だけに留まらないサプライチェーンが増えていることです。海外に工場や販売拠点のある企業では、現地で部品や原料を調達するため、企業や業種を越えて簡単にシステムがつながるという状況が生まれています。日本は後れを取っているものの、実はアジアでとりわけそれが顕著です。現在、TTP(環太平洋戦略的経済連携協定)をめぐる動向が世論を熱くしていますが、それよりはるか以前、1992年よりASEAN(東南アジア諸国連合)が主導してFTA(自由貿易協定)の締結が進められてきました。とはいえEUなどとは異なり、オーストラリアなど環太平洋諸国を含むアジアの国々は多様性に富んでいるゆえに、多くの難しい課題も抱えています。各国の社会システムや制度、経済や技術発展の進度の差が非常に大きいこともその一つです。そうした国々を結びつけ、スムーズに貿易を行うには、情報システムの相互作用が欠かせません。いまやITなしにはサプライチェーンは立ちゆかないという時代になっているのです。
 サプライチェーンのグローバル化に加えてもう一つはずせないのが、個人情報の越境移動が進んでいるという問題です。しかしプライバシー保護一つをとっても、各国で制度も法律もバラバラで、利用可能な技術も、さらには前提となる文化や慣習、経済システムも異なります。グローバル化の進展にデジタル技術は極めて大きな役割を果たしました。しかし今、デジタル技術の伸長に各国の制度が追いついていないという問題が生まれています。これをうまく解決する妙案は、いまだ見つかっていません。本日の講演、討論を機にぜひ皆さんにも積極的に議論していただきたいと考えています。
山口 英(奈良先端科学技術大学院大学 情報科学研究科 教授)
フォーラムダイジェスト

■基調講演I IT技術の普及とグローバリゼーション

 初日の基調講演では、インテル株式会社の竹井 淳氏に、ITが世界に普及する現状と、それによって起こりつつある新たな課題について語っていただきました。
 冒頭竹井氏は、IT、あるいはインターネットの最大の価値を、情報や知識を世界共通の基盤で共有できるところだと述べました。この利点によって、グローバルに普及したものの、近年、法制度や政策がそれに追いついていないという問題も露わになってきているといいます。
 竹井氏によると、日本におけるITの普及は、2001年からの5年間で急速に進みました。ITのインフラストラクチャーが整い、普及状況は世界の上位10カ国に入るまでになったといいます。ところがその後、その勢いは急速に衰えていきます。技術の進歩に法制度改革が追いつかなかったために、医療、教育、政府などのIT化をうまく軌道に乗せられなかったと、その理由が解説されました。
 ITのみならず、あらゆるビジネスをスムーズに機能させるのに寄与するものとして、竹井氏から提案されたのが、“エコシステム”です。これは「食物連鎖」の概念を経済に応用したもので、ビジネスの流れを円状に描き、ステークホルダーを想定します。最も優れたエコシステムのモデルとは、円内のステークホルダーが公平に利益を獲得でき、かつ最終ユーザーにとって最も望ましい形で商品が届けられる仕組みでなければならないと説明されました。エコシステムを描くことで、ステークホルダーや課題が一目瞭然となり、必要な人材や資金、対策が明確になります。これによって医療、教育、政府のIT化も進むはずだと述べられました。
 さらに日本や一企業の利益追求に留まらず、「世界にどう貢献するか」ということにも竹井氏の関心は向けられています。国内だけでマーケットを維持しようとして、日本が「ガラパゴス化」することに懸念を表し、竹井氏は日本のビジネスを世界標準に最適化する必要性に言及。そのためにはエコシステムの大胆な改編が避けられないことも示されました。

 今後は、これまでのように技術のみを追究するのではなく、「社会の成長や世界への貢献を意識した開発が求められる」とした竹井氏は、そのためにポリシーや世界共通のルールの必要性を説きました。そしてこうした共通のルール、国を越えたフレームワークをつくっていく上で、日本が世界に大きな役割を果たせるのではないかと期待を寄せました。

■討論1

 夕食前の討論では、とりわけ遅れているといわれる日本の医療、教育、政府のIT化について、多くの議論が交わされました。こうした公共性の高い分野にも民間の機関が参入し、市民やユーザーにサービス、すなわちメリットを提供しながら、情報収集や管理を行う仕組みをつくることが有用だといった意見が出されました。

 また電子書籍など、インターネット上の著作物の質の低下にも言及されました。これを防ぐ手立ての必要性が語られる中で、日本におけるメディア・リテラシーの成熟を求める声も聞かれました。

■自由討論

 夕食後の自由討論では、まず日本の「ガラパゴス化」が議論の的になりました。こうした現状には、日本のマーケットが充実しているといった要因に加え、ガラパゴス化を是とするような「日本人のマインド」も影響していると指摘され、意識改革の必要性が口々に語られました。
 さらに基調講演で提起された国際的なルールづくりについても、さまざまな見解が示されました。ここでも、トップダウン式ではなく、民間が主導しながら国際的な場で世界共通の規則をつくっていくことが望ましいとの提案に多くの賛同が寄せられました。

 一方では、欧米諸国を中心としたIT先進国がこれまでにつくってきた国際ルールを新興国に強要することに、疑問が投げかけられました。こうした課題を解決していくためにも、アジアの国々が対話する場をつくっていく重要性が指摘されました。

■基調講演II

 翌日に行われた基調講演Ⅱでは、慶應義塾大学大学院の折田明子氏に、インターネットにおける匿名性をめぐる問題について、興味深い話題を提供していただきました。
 まず指摘されたのは、インターネットにおける「匿名」には、「名無しさん」やハンドルネームなどいくつもの形態があるという点です。折田氏は、それゆえに「匿名性」は、匿名か、実名かといった二項対立で捉えられるものではなく、いずれにもメリットとデメリットがあるとして、「どう使い分けていくか」という発想が必要だと語りました。
 また折田氏は、インターネットにおける「匿名性」を計る指標を、「本人到達性」と「リンク可能性」の二つに整理しました。前者は、ある人物が「誰であるか」特定できるか否かを計るものであり、後者は複数の行為が「同一人物と関連づけられるか」が問題になるといいます。匿名性は、二項対立ではなく、この「本人到達性」と「リンク可能性」という指標を含めた二軸で捉えることが提案されました。
 加えて折田氏はIDの匿名性にも言及しました。IDの場合は、利用者には匿名でも、認証を確認するサービス提供者にとっては特定可能であるなど、立場によって匿名性の高低が異なることが解説されました。
 続いて、私たちがインターネットを使う際、匿名か否かにかかわらず、「意図する」情報のみならず、数多くの「意図しない」情報を提供しているという興味深い例が報告されました。ツイッターの投稿履歴やブログの内容、“Facebook”のタグ機能などによって、当事者が意図しないままに現実生活の情報がインターネット上に流出したり、本人だとリンクされる場合があるといいます。こうした特性にもメリット、デメリットの表裏両面があり、一概に善し悪しを判断できないものの、ユーザーが自分の提供した情報に対してあまりにも無自覚であることには警鐘が鳴らされました。

 ITの普及は私たちをどんな未来へと導くのでしょうか。プライバシーを守りながら、インターネットの便利なサービスを活用したり、ビジネスや生活に役立てたり、また自らも情報を発信して多くの人の役に立てるような“楽観的”な未来でしょうか。あるいは大量の情報によって本人が特定されたり、流出した情報が揮発しないことによって個人の現実生活が脅かされるような“悲観的”な未来になってしまうのでしょうか。いずれを選択するかは私たち次第だとして、折田氏は講演を結びました。

■討論2

 講演後の討論では、特にインターネット上の情報が「揮発しない」ことに多くの関心が集まりました。揮発しないことでもたらされるさまざまな危険性が話し合われ、議論は死後の情報管理にまで及びました。
 また「ツイッターやブログは時間の無駄ではないか」といった苦言が呈される一方、こうした情報発信が知の共有に役立つといった肯定的な意見も聞かれました。こうした情報伝達を、旧来のトップダウン式ではなく、市民側からボトムアップ式に広がる新しい形として捉える見方が紹介され、社会を動かす構造が生まれつつあるといった見解が示されました。

 加えて、技術開発そのものについても目が向けられました。画期的なテクノロジーが生まれにくくなってきている日本の現状が危惧され、教育や人材育成、ベンチャービジネスの育成の必要性について、いくつものアイデアが提起されました。
■第11回 アエラスフォーラムII 開催概要
■アエラスブックレットNo.11 (PDF:約1MB)
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